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2020.12.25

大学の講義にて【社長 鶴田浩ブログ】

先日、椙山女学院大学で今年最後の講義をさせていただきました。他にも愛知工業大学で5月に、名古屋工業大学では10月に、いずれも建築デザインや住宅デザインに関わる学生たちに向けて、今年も3つの大学で行いました。ナゴヤデザインウィークやメイドインジャパンプロジェクトなどで出会った大学教授からの依頼を受けて、2014年から始まった大学での講義も来年で7年目を迎えます。

 

 

講義を初めて引き受けたのは、僕がちょうど50歳になる年でした。少しずつ、次の世代への橋渡しを意識し始めた頃です。この業界を支える次世代の学生たちに、僕の話を通していろんな気づきがあって、建築ビジネスにも興味を持ってもらえたらと思っています。とは言え、建築論は普段から勉強していると思うので、いつもとは違う視点から建築や生き方に触れられるよう、僕自身の経験から話をすることにしています。

 

 

その一つが、現場監督だった20代、一時休職して1年半にわたって世界中を旅した時のこと。著名な建築家たちのいろんな作品を見て回りました。それらはもちろん素晴らしい建築物でしたが、最も印象に残ったのはアフリカで目にした土色の町並みでした。スペインからモロッコに渡り、カサブランカからマラケシュに向かう間の、アトラス山脈の山中の町ワルザザードは、日干し煉瓦で建てられたパレスや住居によって土色一色。アトラスの山並みに沿うようにして大自然と一体になっている町を見て、これが本当の建築かと、町の本物を見た気がしました。その土地の素材や気候・風土、文化・宗教によって建築は作られるものだと思い知らされました。リアルスタイルが建物だけでなく町づくりまで見据え、普遍的な美しさや自然素材にこだわるのは、この時の体験が少なからず影響しているように思います。

 

 

そうした北アフリカの様々な土地で、日本の存在は驚くほど大きなものでした。彼らは日本製の文具や車を愛用し、黄色民族でありながら当時からG5の一員だった日本は、彼らにとってアメリカと双璧をなす大国だったのです。世界地図を広げて、「日本はどこにあるか知ってる?」と聞けば、みんな揃って中国を指差しました。その隣にある小さな島国であることを伝えた時の、彼らの驚きは今も忘れられません。アフリカに限らず、世界のあちらこちらで、僕は日本がどれほどリスペクトされているか目の当たりにしたのです。日本を出て初めて、メイド・イン・ジャパンの本当の凄さを知った気がしました。

 

 

また、僕が尊敬してやまない故岩倉榮利氏から聞いた話も、そのまま学生たちに伝えています。それはコペンハーゲンにあるデザインミュージアム デンマークで2015年から3年にわたって開催された日本展「Learning from Japan(日本に学ぶ)」について。国立の博物館が1つの国を取り上げて3年間も展示を続けることはまずありません。なぜそんなに長く続いたのか、岩倉氏はそのミュージアム関係者に尋ねたそうです。今でこそ、世界をリードするデザイン大国と言われるデンマークですが、200年前には酪農と農業の国でした。そこから文化国家となるべく世界中に送られた使節団の一つが辿り着いたのが極東の島国、日本だったそうです。そこで目にした日本の手工芸品、例えば繊細な飾り金物、大胆な着物柄の伊勢型紙、緻密な木工細工、浮世絵などを大量に持ち帰り、それらを参考にしてデンマーク文化の礎が築かれたといいます。

 

 

この展示会はそれを裏付けるもので、「日本は我々の先生だから、デンマークの人々も関心を寄せている」のだと。日本の作品とそれを元に生まれたデンマークの手工芸品を並べて展示し、いま世界中で評価されているデンマークデザインの源流が日本にあったことを示すものでした。ロイヤルコペンハーゲンの手書きによるコバルトブルーの唐草模様が、有田・波佐見焼の影響を強く受けていることや、ゴッホなど多くの芸術家たちが日本の芸術・文化に憧れインスパイアされたというのはもはや周知のこと。イタリアは戦後、こうして生まれたデンマークデザインの流れを受けてクラシックからモダンデザインへとシフトし、確立されたイタリアンモダンは世界を風靡しました。学生たちにもこうした歴史から知ってもらい、自信を持って日本のものづくりをさらに高めていってほしいと思っています。

 

 

講義ではもちろん実践的な話も多く盛り込んでいますが、最後に必ずさせてもらう話があります。これが一番大事なことで、人生を成功させる話だと言うと、学生たちはより真剣な眼差しになるのですが、それは「人生で成功する人は、徳のある人」だということ。「徳」という漢字は「素直な心を行する」と書き、徳をいっぱい持っている人ほど成功するものです。若い学生たちこそ、素直な心でたくさん吸収しながら行動を起こしていってほしい。そう思います。

 

 

日本人は、こうして心の在り方を文字にも残してきました。他にも「情けは人のためならず」という言葉があります。情けをかけたらその人のためにならないと解釈されがちですが、情けは巡り巡って自分に良いこととして返ってくるものだから、自分のためにも「人に情けをかけなさい」という教えです。同じように、人のためと書いてなぜか「偽」になってしまう言葉がありますが、これは「人のために尽くしなさい」という教え。人のため社会のために尽くせば情け同様、自分に返ってきますので、結局は人のためでなく自分のためなんですね。だから人のためと書いて「偽り」なのだと。とても深い言葉だと思います。これから自分の道を選び歩んでいく学生たちには、これらを心において頑張っていってほしいという思いを込めて、こうした話で毎回の講義を締めくくらせていただいています。

 

 

2020年も皆様には大変お世話になりました。どうぞ良いお年をお迎えください。

 

また2021年は、吉祥寺店、仙台店、THE GIFTS SHOPが1月2日から営業。

本店、青山店、名古屋東店、金沢店、本部は1月4日から営業します。

来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

 

リアルスタイル代表取締役 鶴田 浩

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